石巻市震災遺構門脇小学校
建築・展示・ランドスケープが一体となり記憶をつなぐ
石巻市震災遺構門脇小学校は、東日本大震災による津波と津波火災の被害を残す唯一の建物です。
2018年に公募型プロポーザルが行われ、約4年の設計・工事期間を経て2022年4月に開館しました。「本校舎」の中央部(両サイドは切断)は震災遺構として残置保存とし、奇跡的に被害を免れた「特別教室棟」「屋内運動場」は展示場として改修、新しくそれらを巡るための動線となる観察棟を増築する、といった多様な視点を求められる複雑なプロジェクトでした。
she|design and research office は、協力事務所としてプロポーザルから設計JVに参加し、建築(主に内/外装デザイン)・展示・サインに設計協力として関わりました。多くの人が携わるプロジェクトのなかで、基本設計時には住民ワークショップなどによる意見集約を行い、建築と展示の意図が空間のなかで一体的に見えるよう調整する役割です。
この場所でしか体験できない残し方
プロポーザルの時点から、震災遺構となる「本校舎」は、維持管理・コストなどのさまざまな事由で両サイドを解体することが決まっていました。建築は時間が経つにつれ、その姿が多少なりとも変わっていくものですが、「元々の小学校の履歴がわかるような残し方ができないか」と考え、西側は基礎部分を残し、東側は中庭との高低差を自然に緩和できるよう高さを合わせながら壁やサッシの立ち上がりを残して解体しています。カットされた高さ約1800mmは、この場所の津波浸水高でもあります。
シークエンスのなかで震災を考える
一般的にこのような展示施設では、外構→建築→展示室といった単調な構成のなかで一方的に情報を伝える形になりがちですが、ここでは建物の内部と外部を行き来することで、震災遺物や被災状況、被災者の声などと同様に、外部の風景(海・公園・新しい復興団地)にも目を向けることができます。さまざまな距離感で震災に向き合うことで、多声的な震災伝承の場になるよう計画しました。
長い歴史があり、地域にとって大切な思い出が詰まっている門脇小学校。
解体から全体保存までさまざまな意見があるなかで、震災の記憶を伝え、防災・減災の心構えを培いながらも、周辺環境や自然とともに育まれた命の尊さを感じられる施設を目指しました。